日を改めまして…

次男坊  :それでは早速ですが今日はパン作りでも『天然酵母』(※1)から聞いていきます。パン作りの要で、食工房の味の決め手になっている天然酵母』の魅力…、なぜ天然酵母なんですか?


青木さん :天然酵母しかないよっていう、ただそれだけだよね。


次男坊  :(笑)…そこをもう少し具体的にお願いします。


青木さん :天然酵母のほかには『イースト』(※2)って言われるものが使われているんだけど、それは工業化されていて、品質も安定していて…。とにかく完全にマニュアル化できていて、イーストをデータどおり使えばちゃんとパンが出来ることになっている。でも昔にイーストが作られたプロセスや目的や性質、天然酵母との違いなどが分かってくると天然酵母を使う事はそれほど特別なことではないんだ。逆にイーストは使えないなと考えるようになる。それはごく自然なことだと思うよ。


次男坊  :前回の食に関するお話などを聞いても、青木さんが天然酵母を使うことはそれほど違和感はないです


青木さん :イーストがもてはやされる理由は、時間の節約、経済的な理由、食品を工業化しやすいなどだけど、当たり前にあるべき“人の健康”や“パン本来のおいしさ”は二の次になっているような気がする。


次男坊  :ちなみに天然酵母の扱いの難しさってどこですか?


青木さん :酵母菌の活性を判断する、つまり見分けるのが難しい。


次男坊  :それはつまり酵母を使うタイミングということですか?


青木さん :タイミングもそうなんだけど、たとえば使うにあたってもう一時間待ったほうがいいとか、逆に少し遅いとか…。それは酵母がパン生地をこねた時に中でどの程度繁殖して発酵してるかを見分けることが大事なんだ。だけどこれが難しい。酵母もブクブクやってると元気よく発酵してると思うでしょ?


次男坊  :はい。単純にそこが使いどころだと思ってました。


青木さん :確かにそれは元気には違いないんだけど、でもその範囲って実はものすごく広いのよ。そのブクブクの泡の状態だってよく見ると細かく変化してるから今発酵している若い状態ともうそろそろ寿命がきて発酵が終わって年取った状態とでは全然違う。 


次男坊  :年取るっていう感覚か~。確かにそうですよね?生き物ですもんね。実態として見たことがないから酵母が生き物という感覚があまりないです。


青木さん :酵母菌だって寿命があるからどんどん時間が経過すればもちろん酵母も古くなってくる。栄養源が切れてくれば酵母菌は死ぬからね。


次男坊  :じゃあどの時期に酵母を使うのが青木さんのパンに適しているのですか?


青木さん :それは作るパンの種類によって違ってくる。そして温度のかけ方や時間のおき方でも生地の状態が変わってくる。パンを自分の理想に近づけるには酵母の発酵の状態をいかに自分が作りたいパンに合った状態に出来るか、その判断がとても重要になる。パンの状態はとにかく酵母で決まる。でもそれにはやっぱり経験を積まないとできない。天然酵母は不確定要素が多いから
一時間経ったらいい状態になるというのはあくまで予想であって

実際なってみないとわからない。
未だに20年以上やってきても予想外ということはある。そうやってパンを焼くにあたって一番いい状態の酵母菌に仕立てるには
1日2日と時間をかけて面倒を見て、場合によっては夜中までやることもある。だから状態は常に見ないといけない。

でもイーストを使えばそれが5分でできる。


次男坊  :そうですね。まったく手のかけ方が違いますね。


青木さん :ドライイーストだったらお湯で溶かして5分位したらブクブク~ってなるから。俺らが何十時間かけてやってる仕事がそれで完了しちゃうんだから…楽だよね(笑)だから味もそうだけど食品としてのクオリティが全然違う。天然酵母を使うのって大変なことなんだよ。


次男坊  :天然酵母の管理や扱いが難しい中で、青木さんの酵母は20年以上継ぎ種(※3)をして酵母が生き続けています。


青木さん :そもそも天然酵母は継いだ方が酵母が強くなるんだ。酵母の性質を知り、日々面倒を見てあげれるか…。ただこの継ぎ種もなかなか難しい。


次男坊  :面倒を見る…。まるで子供を育てるよな…。


青木さん :だから命に接する勘を養う…、そういう感覚を持つことが一番大切なんだと思う。もちろん酵母の科学的知識はあって邪魔にならないし、酵母菌自体も研究され尽くしているから酵母菌にいいものは頭では理解できる。
だけどそこからおいしいパンにしようと思ったらそれだけじゃできない。あくまでそういう感覚というのは日々付き合って育っていくものだから、おのずと長い時間や経験は必要になってくる。


次男坊  :ところでずっと疑問に思っていたことがあって、パン屋さんてメニューはいつ思いつくんですか?


青木さん :メニューは『こんな時に!』っていうのはとくにないよ。いろいろな必要があって、例えば目新しい材料が手に入ってこれを生かして何かできないかなって…。食工房の人気商品の『かぼちゃのあんぱん』もかぼちゃが手に入ってかぼちゃで何か出来ないかを考えて…ある時、あんぱんにしよう!ていう感じ。


次男坊  :それは急にパッと思いつくんですか?


青木さん :じわじわ出てくるよ。あんぱんていう発想はパン屋をやっていれば自然に出てくるからそんなに特別なことではないよ。

例えばかぼちゃをあんぱんにする前にかぼちゃのスプレッド(塗り物)を作ってパンに塗って食べる。おいしかったら、そこからあんこでもいいなと考え、もう少しあんこにするのにあんを硬くして作ってみる。そしてあんぱんになっていく。サツマイモが手に入れば今度は普通のあんぱんよりは少し思考を変えて正月に食べるきんとんをイメージしてゆずを入れてみるとか…。どちらともそうやって商品になっていて、それはヒットしたんだ。


次男坊  :おもしろいですね。


青木さん :料理はアートだって言ってた人がいたけど、パンのメニューを思いつく発想ってアートと類似する。パン屋ってクリエイティブな仕事なんだよね。無いものを生み出すわけだから。


次男坊  :そうですね。でもそれと同時に裏ではたくさんの試行錯誤を繰り返して新しいパンが生まれてくるわけだからそう考えるととても奥が深いです。なんだかこれからはパンの見方が変わりそうです。

青木さん :結局、料理が好きなのよ。やっぱりそれがあるから発想も豊かになる。 

 

 


次男坊  :最近、国でやっていた家計調査の食料品支出額というのを見つけました。そこでびっくりしたんですが平成23年にパンが米を上回っていたんです。これ青木さんはどう感じますか?


青木さん :日本人の中でのパン食ってパン食の歴史が長い西洋のパン食とはまたイメージ的に違う。日本はまだパンはお菓子の位置づけが定着している。ちゃんとした食事をしたいと思った時に日本人はパンを食べるかと言われたらやっぱりお米を食べるんじゃないかな。


次男坊  :たしかに今は食べ物も豊富で食事を作るのも簡素化されてそういう意味でのパン食は多い気がします。


青木さん :それは残念だよね。だからそういうパン食が増えたとしてもうちのパンは売れない。うちはあくまで食事で食べてくださいよっていうパンを焼いているから。夕食でもパンを食べたい人が喜ぶパンになっている。


次男坊  :じゃあこの事は、青木さんにとってはそれほど影響はしていないと?


青木さん :んー…、パン食全体が増えてくるって事はそれだけコアなお客さんも出てくるし、本当のパンのおいしさに開眼する人も出てくると思うから良いことではあるんだけど、うちに限ってはそれほど変わらないかな。とくに会津はお米の国だからね。


次男坊  :あっ、そうですね(笑) 


青木さん :だから『何で会津でパン屋なの?』って言われるよ。でもそんな中でも少しずつうちのパンを買ってくれる人はいて、今ではよそでは作っていないパンを作れるようになってきている。それはうちの強みでもある。例えばライ麦のパン。ライ麦をたくさん使ったパンを作っているところは会津ではほとんどない。


次男坊  :難しいんですか?


青木さん :うん。まずは材料が無い。パンの材料として出てることは出てるけど外国産で、さらにライ麦を使いこなすノウハウがない。しかもパン屋で自給してるところは他にないからそういう意味では数は少ないと思う。


次男坊  :近年食のスタイルが大きく変化し、その影響で食の安全も脅かされいます。そこでパンを通して最後に食について伝えたいことはありますか?


青木さん :我々は食の“安全”と“おいしい”が一致するような食品を提供してるんだけど、食べる側の人たちにもそういう感覚になってほしい。例えば身体に悪いんだけど、うまい!っていう思考って少なからずあるでしょ?すごく甘いお菓子があって、これを食べ続けたら身体に悪いのは分かるんだけど辞められないって。そうじゃなくて、身体に良くて美味しいよっていう…食べる人の感覚も磨いて欲しい。その感覚で臨んでもらえれば食工房のパンが理にかなってくると思うんだ。そしてそういう意味でこれからもパンを作りながらお客さんに情報提供、啓蒙活動をしていかなければならないと思っている。


次男坊  :これからもステキなおいしいパンを作り続けてください。今回は本当にありがとうございました。



『天然酵母』 ※1) まずパンは小麦粉と水をこね炭酸ガスを含ませることによりふっくらと焼き上がる。この炭酸ガスを発生させるのに必要なのが酵母であり、パンには必要不可欠なもの。ここでの天然酵母とは天然の原料(果実や果物、根菜類)だけで作った酵母菌で、そこにはいろいろな種類の酵母が混在していてそれぞれの酵母の出すアルコールと、もともと付着していた果実や穀物のフレーバーがパンに独自の味と香りの“個性”を付ける。しかし、温度管理が難しく手間と時間がかかる。発酵力が弱く、培養される酵母菌数も一定でないこともあり、パン作りに使うと失敗することも多いため扱うには知識や経験がいる。
『イースト』 ※2) パンの風味や特性にあった単種の酵母(微生物)を工業的に純粋培養したもの。パンに使われているイーストは生イーストとドライイーストの2つがある。ドライイーストは手に入れやすく、短時間で発酵し作業もスムーズに進むため、自家製のパンづくりには便利。(※酵母=イーストであり、自然界に存在する酵母であることに違いはない。ここでは分かりやすくするため天然酵母以外のものをイーストと読んでいる。)    
『継ぎ種』 ※3) 一度培養に成功した天然酵母の一部に同種の原料(小麦粉など)と水を加え、適正な温度管理を行って再び増殖させる。これを繰り返せば同一の種をずっと使い続けることができる。これは良い種をできるだけ継続して使った方が良いのと、パンの味のバラつきを防ぐことでもある。

(タカハシ調べ)

食工房は皆さまの食生活にささやかな喜びを差し上げることを
目指しています。
天然酵母パンと焼き菓子の製造販売以外にコーヒー豆の自家焙煎とスパイスワークも手がけています。
まずは皆さまの健康づくりのお役に立てるしっかりと食べ応えのある食事パン、思わずお顔がほころぶお楽しみ菓子パン、贈り物としても喜んでいただける焼き菓子…各種を毎日心を込めて焼いておりますのでぜひお試しください。

 

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